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小学館文庫 『ごろつき船』

『ごろつき船』
 入手困難になっている昭和の大衆小説の名作に光を当てる〈昭和エンターテイメント叢書〉の一冊として刊行された。シリーズの選者北上次郎(文芸評論家)は、時代の空気を色濃く反映した大衆小説は、時代の変化で風化してしまうという宿命を持つなか、いまでも読者の心をつかむことのできる作品として、真っ先に本作を選んだという。

[あらすじ]
 蝦夷松前藩の家老蠣崎主殿は、船問屋赤崎屋吾兵衛と結託し、赤崎屋の商売仇である八幡屋六右衛門に密貿易の嫌疑をかけて殺害、家屋敷を焼いてしまう。また、これを察知した松前藩役人三木原伊織も亡き者にしようと画策する。こうしたなか、江戸の盗賊佐野屋惣吉、元旗本でアイヌ部落に隠れ住む土屋主水正、万昌院の和尚覚円らが立ち上がり、正義を守るために戦いを開始する。
 八幡屋事件から11年後。首謀者の赤崎屋は今もなお、八幡屋の遺児銀之助や土屋たちをつけ狙い、探索を続けていた。一方、乳母の手で密かに育てられ成長した銀之助は父の仇を討つために立ち上がり、主水正や覚円、ロシアに流れ着き時節の到来を待つ伊織たちとともに、蝦夷地へと向かう。「ごろつき船」を操り、大海原を自在に往き来する切支丹一味と虎を自在に操る謎の美少女(じつは伊織の娘春江)、銀之助らを助勢する幽霊組首領田島屋重兵衛、雷神丸の船長次郎七(赤崎屋の弟)、蠣崎主殿の違腹の弟流山桐太郎らが絡みつつ、赤崎屋が隠れ住む秘密の島で最後の戦いの火ぶたが切られる

[解説]
 国内諸藩とは著しく事情の異なる江戸時代の蝦夷地を中心に、北はロシアから江戸、京・大坂を経て、南は九州博多、さらには安南(現在のベトナム)にまでに及ぶ壮大なスケールの海洋エンターテインメント小説である。
 善悪の二大勢力が、絶えず攻守所を変えながら読者を一喜一憂させる展開はスピーディーかつ興趣に溢れ、先へ先へと読み進まずにはいられない。昭和3年11月から大阪朝日新聞に連載を始め、翌4年6月に終ったこの作品は、「赤穂浪士」「照る日くもる日」に次ぎ、新聞小説では三番目という。31歳でエンターテイメント小説に不可欠な要素を存分に駆使した手腕は、すでにベテラン作家の域に達しているといえよう。
 大衆作家として出発した大佛は、同じようなものを繰返して書くことを恥に思い、新しい冒険を試みることを念頭に置いていたと自ら記すが(読売新聞社版「大佛次郎時代小説自選集」第四巻「あとがき)、真面目でやや謹直な「赤穂浪士」のすぐあとという事情もあって、本作では史実や写実の拘束から解き放たれ、空想的な性格のものを作ろうと志したのだと語っている。
 なお、ここでいう「ごろつき」とは、権力者にへつらうことなく、自らの法をもって自由に生きる者たちをさしているが、鎌倉中期に出現し、室町期を経て戦国時代にまで連なる特異な集団(折口信夫「ごろつきの話」)をイメージしたことは言うまでもない。彼らの持つ秘密結社的な、強固な団結こそが「ごろつき船」の魅力だといえるが、これは後年に書かれた「ゆうれい船」(昭和31朝日新聞」連載)にも連綿と受け継がれている。DK

●判型・定価など
型=文庫版
数=上=552頁、下巻=537
価=各巻とも790円(税込み) 
出版社=小学館

 

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